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    「志通信」メールマガジン                  2001年11月 VOL.28

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■死

去る9月25日、私の父が亡くなりました。享年71歳でした。
平均寿命から考えると少々短い生涯ではありましたが、 いくつかの病気を患ったことやその中身の濃さを考えれば、 父なりの人生を全うできたのではないかと思います。

最終的な死因は癌でした。
志通信の24号で癌との闘病を取り上げましたが、 実は私の父のことでして、その後も引き続き闘病生活を送っておりました。
(本人が病気のことを周囲に知らせたくないと申しておりましたので、  隠しておりました。申し訳ございませんでした) 父は病気のことを詳しく調べ、病状と比較しておりましたので、 自身が確実に死に近づいていく現実を直視し、受けとめることは 大変辛かったのではないかと思います。
周囲ももちろん辛い思いをしましたが、私自身は辛さと共に 父が自分なりの生き様と死に様を追究しようとする姿勢から感じ得たものは 少なくありませんでした。

最後の約一年間を簡単に振り返りますと、昨年の9月に腸閉塞を併発します。
手術を無事乗り越え、術後も順調でしたので11月には快気を祝い、 九州を旅行しました。
ただこの手術は体力的な負担が大きかったようで、春先の検査では癌の 転移が進んでいることが判明します。
その後本人も脚の浮腫みなどの症状によって、進行を自覚せざるを得ない 状況になっていくのですが、それでも癌と闘う気持ちが萎えることは ありませんでした。

次第に体調が悪化する中で、今年の6月に海外旅行のチャンスがありました。
脚のこともありますので、どうかと思いながら誘ってみたところ、 数日考えた上で「是非行きたい」と申しました。
旅行中、父は痛みをこらえ足を引きずりながらも自分で歩きました。
笑顔等、周囲への気配りを忘れませんでした。そして最後の良い思い出と なりました。
帰国後一ヶ月ほど経過した7月の上旬に背中から腰にかけての激しい痛みを 訴えて病院へ行ったところ、脊髄に転移して骨がボロボロになっており、 とうとう自らの脚で立ち上がることができなくなってしまいました。
それから痛みを抑える放射線治療を行いますが、その影響で内臓の調子が 悪くなってしまい再度開腹手術を行います。
その後も病気は確実に進行してやせ細り、最終的には肺機能の低下が 生命を脅かすようになってしまうのですが、父は精神的に不安定に なることはほとんどありませんでした。
心中穏やかではなかったと思いますが、少なくとも家族や周囲の前では、 冷静に振舞っていたのです。

そして9月に入って分かったのですが、8月頃からベッドの上で遺書を したためていたようです。
遺書の内容は、まず家族や親族をはじめこれまでお世話になった方に 対する感謝の気持ち、そして我が人生に悔いなしという気持ち、 それと葬儀や死後のことに付いて書いてありました。
これはある晩、病室で父が眠っているときに、兄が見せてくれたのですが、 まさか遺書を書いているとは知らず、思わず涙が溢れました。
それから父と死後のことについて話をするようになりました。
本人と葬儀等の打ち合わせをするというのはとても不思議な気持ち でしたが、お互いに覚悟ができて本音の話をすることができましたし、 父にこれまで私を育てていただいた感謝の気持ちを伝えることができ、 親孝行ができなかった私にとって、せめてもの救いとなっています。

亡くなる二日前には、父の呼吸が荒くなり、表情も苦しそうでした。
そして父から「家族に会いたいな」との申し入れがあり、 その日は家族が集まり最後のお別れをし、その翌々日の朝、眠るように 息を引き取りました。
父は派手ではなく、多くを語る人間でもありませんでしたが、 様々な事に対して、実直に挑戦していました。
その生き様と背中に、息子として学んだものは少なくありませんでした。
よく「死を考えるということは、生を考えることである」と言われますが、 これまで知人や諸先輩の死に直面する度に、「生きる」ということを 考えてきましたが、実父の死を通じて、人生についてより深く掘り下げ、 考えることができました。
これから亡き父に恥じる事のないよう生きていきたいと存じます。

最後になりますが、広島で「養心の会」を主催しておられる マルコシの木原社長からいただいた文章から、 神渡良平先生が自筆で書かれていた以下の詩をご紹介致します。

「神の慮り」

 大きな事を成し遂げる為に
 力を与えてほしいと神に求めたのに
 謙遜を学ぶようにと弱さを授かった
 より偉大なことが出来るようにと
 健康を求めたのに
 より良きことが出来るようにと
 病弱を与えられた
 幸せになろうとして富を求めたのに
 賢明であるようにと貧困を授かった
 世の人の称賛を得ようとして
 成功を求めたのに
 得意にならないようにと
 失敗を授かった
 求めたものは一つとして与えられなかった
 が願いは全て聞き届けられた
 神の意に沿わぬ者で
 あるにもかかわらず
 心の中で言い表せないものは
 すべて叶えられた
 私はあらゆる人の中で
 最も豊かに祝福されていたのだ

 ニューヨーク州立大学病院の壁に残されていたある患者さんの詩

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